月の小部屋

俳句のことなど。

明日の輪郭

第九回俳句四季新人賞応募作。一人落選展です。

 

明日の輪郭

ひとひらの雪ひとひらの風となる

臨月のやうな雪夜を抱きにけり

冬の鳥あらはに空の透き通る

雪吊や吾に羽搏くかたちして

寂しさの輪郭に似て春の雪

黒鍵を叩けばすでに恋の猫

ポケットのコイン囀るやうに春

メレンゲや雪解雫の三拍子

蝶と風分けあふ空の蒼きかな

ふらここを雨に漕ぎ出す青年期

風やんで暇持て余す春ショール

春服やこちらを向いてゐる供花

稜線に抱かれてをりぬハンモック

冷蔵庫閉めては仕事終はりとす

水槽の底の匂ひの梅雨の街

田植唄水面に空のさざめきぬ

神木の朽ちても紙垂へ夏の雨

らうらうと滝は一握りの匂ひ

片蔭の隅に真白き呼吸音

うすものやサラダボウルに盛るパスタ

八月の鍵とことはに錆び付きぬ

幼子になる祖母の唄ほうせんくわ

虫の音や茶請けにカルメ焼ひとつ

蜻蛉を捕る合掌のかたちかな

あかげらや死していみじき朱を放つ

肉塊を音なくばらす暮の秋

木枯や喉につかへてゐる言葉

干鮭や語らず謡ふ語り部

エンターキー叩く夜中の卵酒

濡れ落葉踏んでぱふんと昼しづか

 

 

雪華 2021年2月号

好きな句の覚書

 

雪月花より

 

冬の流星運針のやうに果つ/橋本喜夫

主宰から運針なる言葉が出るとは…そういうの疎いと思ってたのに…大変失礼しました。規則的に点滅するように果てるような気がしないのは、私が針仕事が苦手だからだろう。

 

万感は胸に置くべし雪怒涛/大西岩夫

他所へ置いてはいけない。胸に置いておこう。雪怒涛がせつない。

 

薄墨を零して円き雪夜かな/五十嵐秀彦

雪夜の薄墨色が好きだ。夜の色ながら暖かな色。

 

凍つる日や鋏が空に鳴るごとく/鈴木牛後

あの痛いほど凍てた感じは絶対にキンキンした音が鳴ってると思う。

 

身に入むや母の看取りのうつらうつら/田口くらら

くららさん、無理なさいませんように。

 

四肢無きは前世の罰や雪達磨/三品吏紀

でもきっと、可愛らしく作られている。雪達磨って刹那的ですね。

 

これぞ粋中原道夫柄の足袋/林冬美

どんな柄?気になる。こういう句が載るのが雪華らしい。。。

 

看病の楽しきときや木の葉髪/畑ひろし

泣きそう。もう看病さえも出来ぬ妻。ご冥福をお祈り申し上げます。

 

湯豆腐や冷めて話が収まりぬ/廣田和久

冷めた湯豆腐は冷や奴にもなれぬ。

 

 

大先輩の句をこんな風に書いて怒られないかな?とちらと思うのですが、多分怒られない。

好きな句が多すぎてまったく終わらないのですが、今日はこの辺で。

 

 

津川絵理子句集「夜の水平線」

年頭にあたり今年の何か目標を!!ということで以前から考えていた散文置き場を作ることに。

特に読んだ句集で好きな句、感じたことを書き留めておく場所ということでブログ開設です。

その他、自分の活動なんかも書く予定。

 

年末年始の休みに読んだ句集から。

「夜の水平線」津川絵理子 2020.12.1刊行

受話器置く向かうもひとり鳥渡る

ひとり同士だとさびしくないかも。

 

暮れかかる空が蜻蛉の翅の中

蜻蛉の翅が透けて見える空は美しい。

 

鴉呼ぶ鴉のことばクリスマス

鴉は鴉の言葉でしゃべる。何を話しているのか知りたいが侵すことはできない。

 

雪原の足跡どれも逃げてゆく

何の足跡か分からない足跡をよく見る。姿はなかなか見られないんだけど。逃げられているからなのか。

 

玄関に犬の匂ひや夕立来る

犬を飼っているのでよくあること。雨の直前の匂いが濃くなる感じ。

 

春寒き死も新聞に畳まるる

死以外は何が畳まれているのだろう。死は畳まれてそっと仕舞われる。

 

ジェット機の音捨ててゆく冬青空

何気ない句だけど好き。気持ちが良い。

 

遠ざかる写真の日付枇杷の花

遠ざかるのは日付だけではないはず。自分とも遠ざかる感じ。

 

坂暑し一人ひとりの独り言

坂を昇るときってぶつぶつ文句を言いそう。笑ってしまった。「ひとり」のリフレイン。

 

水に浮く水鉄砲の日暮かな

遊び疲れた水鉄砲。明日までの休息。

 

古本に男のにほひ秋深し

どの男の人だろう。秋も深まるとちょっと寂しい。

 

ポケットの木の実の中の鍵探す 

どうして木の実をみると拾いたくなってしまうのか。団栗とか。団栗はポケットに入れると帽子が取れて後で悲しい思いをします。

 

さらりとした手触りのする句集でした。日常を掴み取りながらも句材が豊富。

今年最初に読んだ句集がこれで良かった~