月の小部屋

俳句のことなど。

明日の輪郭

第九回俳句四季新人賞応募作。一人落選展です。

 

明日の輪郭

ひとひらの雪ひとひらの風となる

臨月のやうな雪夜を抱きにけり

冬の鳥あらはに空の透き通る

雪吊や吾に羽搏くかたちして

寂しさの輪郭に似て春の雪

黒鍵を叩けばすでに恋の猫

ポケットのコイン囀るやうに春

メレンゲや雪解雫の三拍子

蝶と風分けあふ空の蒼きかな

ふらここを雨に漕ぎ出す青年期

風やんで暇持て余す春ショール

春服やこちらを向いてゐる供花

稜線に抱かれてをりぬハンモック

冷蔵庫閉めては仕事終はりとす

水槽の底の匂ひの梅雨の街

田植唄水面に空のさざめきぬ

神木の朽ちても紙垂へ夏の雨

らうらうと滝は一握りの匂ひ

片蔭の隅に真白き呼吸音

うすものやサラダボウルに盛るパスタ

八月の鍵とことはに錆び付きぬ

幼子になる祖母の唄ほうせんくわ

虫の音や茶請けにカルメ焼ひとつ

蜻蛉を捕る合掌のかたちかな

あかげらや死していみじき朱を放つ

肉塊を音なくばらす暮の秋

木枯や喉につかへてゐる言葉

干鮭や語らず謡ふ語り部

エンターキー叩く夜中の卵酒

濡れ落葉踏んでぱふんと昼しづか